チラシの裏

てきとう雑記

彼岸の日記

何の前触れもなく唐突に彼岸花が見たくなった。

調べてみたら、とある山の奥地に彼岸花スポットがあるらしい。車で片道約一時間。毎日の通勤にかかる時間は一時間二十分。つまり職場より近い。散歩レベルといってもいい。

彼岸花の旬は九月から十月初旬ということだった。十月は中旬にさしかかろうとしていた。彼岸花的にははたしてギリギリセーフか、ギリギリアウトか。

現地の住人でもなければ牧野富太郎でもない人間が考えるだけ無駄というものだ。とにかく車に乗り込むと山へと向かった。

日頃海ばかり見ているからか、ひさしぶりに山のど真ん中に乗り込むと緑の量に驚く。切り開かれた道路以外はとにかく木、木、木だ。大量の枝葉に陽を遮られ、暗く繁った樹林を眺めていると大自然に対する感動よりも「事件が、起こる……」と、火曜サスペンス劇場脳ばかりが刺激され、ビビるばかりだ。おまけに道路も狭い。切り返しも難しく、迂闊に引き返せない。山の奥へと進んでいくほどに、だんだん彼岸花が伝説の植物のように思えてくる。

しかし、ようやく到着した彼岸花スポットに咲いた彼岸花はまばらだった。残った花も今にも散りそうな雰囲気だ。思わず二度見して他にそれらしき場所を散策してみたが無かった。絵に描いたようなシーズンオフ。旬としてはギリギリどころかストレートにアウトだった。

本当に伝説の花だったら一本だけでも咲いていたらオッケーで、持ち帰れば床に伏せっているあの子も元気を取り戻すというものだ。

だがベッドで花よりも私の無事を祈って帰りを待ちわびているあの子はいない。仕方がないので、無造作に生えているわりにやたら存在感のあるデカいリュウキュウの葉を眺め「トトロだ〜」と、ジブリファンを気取り、高みから渓流を見下ろし「事件が、起こる……」と、再び火サス脳に飲み込まれていくのだった。